9月、静岡県立美術館

最近まあまあ遠出していて、かつて学生の頃にお世話になった先生が「若い時旅をせねば老いての物語がない」という台詞を教えてくれたなあと思い出している。
リアルで休日もらったりしているから、多少の話の種にはなる。仕事の内容につながって話しやすいこともあればそうでないこともある。ここにも書いておこうかなと思ったままけっこう時間が過ぎている。

9月は、18きっぷの消化に静岡に行った。
静岡県立美術館展示「糸で描く物語 刺繍と、絵と、ファッションと。」を見た。
やっぱり私は民族衣装やイヌイットの壁掛けの展示が面白かったな。そしてイヌイットの壁掛けは去年北海道で見たものだった。スロヴァキアやハンガリーの刺繍がきれいだった。スカートの裏地が見えるように一部をめくって縫い留めるという衣装があっておもしろかった。

スロヴァキア各地方の民族衣装のひとつ

同時開催していた「美術館のなかの書くこと」もよかった。
キャプションが好きだな。館所蔵作品を中心に、歴史文書、書画、絵の中のサインなどなどを取り上げて、文字を書くこととという切り口で紹介している。
中でもよかったのは曽宮一念という洋画家(曽宮一念|静岡県立美術館 全所蔵作品)についての展示で、この人は後年失明してしまう。だんだん色の濃淡がわからなくなっていく中で、書をするようになる。「妻や娘の助けを借りて」とか、「視力がなくなると、書を書く際、筆が紙に着いたかどうかが見えない」とかキャプションには書いてあり、その書はいわゆる芸術的なものではないんだけれど、書きたい、という気持ちで書いている筆致ですごいなと思った。1912年から1977年までの100冊以上の日記が残されているとのことで、ずっと文字を書いてきた人なんだろうな(夢の記録もある)。失明後も行を把握する枠を使って日記を書いていたということで、筆記補助具(タイポスコープ)も展示されていた。

曽宮一念 書「夕ばえ」

曽宮一念使用の筆記具と筆記補助具


また、川村清雄という画家は、油絵で日本的な題材を描いている。油彩の中に色紙形があって散らし書きみたいになっていたりしているのが面白いなと思った。幕末に旗本の家に生まれて、明治に静岡に移住した士族で、明治の最初の頃に徳川宗家の給費生として渡米して、結果的に画業を志した人らしい。
(静岡は時節柄かやたら家康推しで、私は正直そんなに興味がないのでふ~~んという感じだったけど、士族の人が移住してきたのなら、それは家康のことも大事にするよなと思ったりした。前後関係が逆かもしれないが)

jmapps.ne.jp

ミュージアムショップを見ていたら、館長の本として『股間若衆』が置いてあり、ああ~この人か!と思った。木下直之さん。ちなみに続編が『せいきの大問題―新股間若衆―』で、ある日不意にタイトルの意味が分かって笑ってしまったんだけどこちらはまだ読んでいません。

焼津には、焼津小泉八雲記念館があった。図書館と隣接の小さな記念館で、八雲が焼津で地元の人と交流しながらくつろいで過ごしたようすとか、自筆のなんとなく味わい深い挿絵だとかを見ることができた。
因みに図書館はぎゅっとまとまっててちょっと手狭な印象で、でも中央の部分が吹き抜けになっているので空間的にはいい感じ。ピクトグラムのように魚のイラストが書架につけてあってややふしぎだった。

openphoto.app

焼津にはみんなの図書館さんかくという私設図書館? コミュニティスペース?がある。立ち寄ったら表のベンチから既に若い人が腰かけて何か作業していた。"さびれつつも新しいことをやろうとしてる部分もある商店街"の中で、目立って人がいる場所という感じがした。一箱本棚は60人くらいオーナーがいるらしい。

本屋さんも広めの焼津谷島屋登呂田店という店があった。文具なんかも一緒に扱っているからかもしれないけど、けっこう若い人などもいて興味深かった。ちなみに中心部が電車の駅から離れたところに集まっているのか、近くのスーパーも大きくて人がたくさんいた(冷凍食品コーナーが大きかった気がする)。

静岡は、2022年にブックフェスタしずおかというイベントをやったそうで、さんかくの人などが中心になっていろいろ頑張っているのかもしれない。

 

魚を食べて、さわやかに挑戦して、冷凍みかんを食べよう!と行く前には考えていた。
さわやかは40分とか待ったけれどもいただくことができた。げんこつは無理かもとしり込みしておにぎりにしたけど、たぶんげんこつでも全然いけました。ミディアムでよいか聞かれて勢いでそれでお願いしてしまったものの、自分の好みとしてはよく焼いてもらえばよかった。
おいしい魚は食べ損ねてしまって、結局駅ビル的なところのスーパーで半額になっているパックのお寿司を買って食べた。その直前に駿河屋(駿府なので本店)で推しのぬいがセールになっているのを見つけてお迎えしてしまったため、つい「お寿司一貫分…」と思ったりした。寿司はおいしかった。
冷凍みかんは着いた日の夜に静岡駅で探そうとしたけど駄目で、翌日帰りにグランドキヨスクでお会計してもらいながら駄目元で聞いたら、すぐに冷凍ケースに駆けていってすっと出してきてくれた。これなら前の日にここで買ってホテルに持ち帰って食べればよかったなと思った。

ホテルは新静岡駅の近くで立地が良かった(全然わけわかってなくて新静岡駅って新幹線か?と思ったけど違いました私鉄の駅でした)。ただ、予約サイトでチェックインが非接触とアピールされているのを見て新しいホテルなのかと思っていたら全然そんなことはなく、換気扇を回すと高校野球が始まるサイレンのような音がした。ずっとつけていられなくてすぐ消した。洗面台に平らなスペースがなくてボディソープやシャンプーのボトルや歯磨き用のコップがトイレタンクの上に置いてあり、ハンドソープは浴槽のふちのところに置かれ、シャワーを使おうとシャワーカーテンを引いたところ物陰にあることに初めて気づいた。
南京錠で固定した部屋の窓の「当ホテルから火のついたタバコを近隣住宅にむかって何度も投げ捨てる人がいます」という貼り紙もすごみがあった。