「燃えあがる女性記者たち」とヒンドゥー展の記憶など

「燃えあがる女性記者たち」を見た。

youtu.be

インドで被差別民であるダリトの、それも女性が立ち上げた新聞社「カバル・ラハリヤ」のドキュメンタリー。インドのジャーナリストは上位カーストの男性が多い中、ダリトを中心に女性だけで、2002年にスタートした農村の開発や地方自治といった地域のニュースとフェミニズムを扱う地域新聞社が奮闘する。特に、映画が撮影されている2016年からは、youtubeを使った動画配信も始めて、草の根的に再生回数を伸ばす。動画が話題になることで、これまで放置されてきた道路の舗装や地域の医療が改善されていくという状況が描かれる。
冒頭から女性に対する性暴力の話が出てきたりとか、記者の家族関係は基本的に良好で信頼関係があるのがちゃんとわかるのに、記者たちが結婚後も仕事を続けることには決して賛成されなかったり、そのシステムの中で安全に、望むように生きるのがなんと難しいんだろうと思った。
中盤以降出てくる政治の話もなかなかのもので、選挙の候補者が女性への性暴力被害への対策を問われてはぼんやりとした政党の主義の話に終始したうえ「レイプのような精神的な問題は」と言ってみたり(精神的??)、ヒンドゥー至上主義の自警団のリーダーである若者が政策の話をされてうっとりと牛の話をしてみたり、ヒンドゥー至上主義については噂には聞いていたけど予想以上にひどいな、と思ってしまった。

私が見た回は、上映後に、インドの政治を研究しているというアジア経済研究所の湊一樹さん トークを聞くことができた。
今のインドは民主主義とは研究者には言えない、と言っていたのが印象的だった。モディ首相のもとでヒンドゥー至上主義は顕著になっているし、ウッタルプラデーシュ州首相がヒンドゥー僧なのも2期目になっていて、インドではジャーナリストが40人も殺害されていて、カバル・ラハリヤはそういうところで報道しているんだ、ということが実感された。本作に対してカバル・ラハリヤが2022年になってステートメントを出したのは、特定の政党を批判していると受け止められることに対する警戒ではとも指摘なさっていた。

ところでヒンドゥー至上主義の話で、あの人たちはお祭りを重視する、という話をされていてさ…。
最近みんぱく特別展「交感する神と人―ヒンドゥー神像の世界」を見た(面白かった!)。去年は古代オリエント博物館で「ヒンドゥーの神々の物語」もやっていたし、最近ヒンドゥーの展示多いなあ、自分も興味を持ってるから気付くのかな、RRRやインド映画その他の流行の影響で増えてんのかな…などと思ったんですけど、これひょっとするとインドの側の国策だったりするのかな。いや実際のところは、日本国内で研究者やコレクターの方々の成果を見せてもらっているのだろうし、展示自体はすごく良いものなんだけど、それでも、もしかしたらと思うと(思うだけで根拠はないです)少し考えさせられるな。

みんぱくの展示ではちょうどインドのお祭りの映像なども出ていて、夜に大きく火をたいてその周りをこの1年に生まれた子を抱きかかえて走って回るお祭りもあった。どんど焼きとかああいう感じの、多分世界中であるやつ。
映画にもお祭りの中で火をたいているところが出てきて、それは昼間に、等身大の案山子を焼いてたんですよね。多分案山子を焼くこと自体は、バーフバリでも似たようなことをやってたし、日本でもコモ焼きとかあるし…ああいう春のイメージなのかな…と思ったんですけど、映像の中のは緑の服を着た案山子で。イスラム教徒的なイメージなのかなと思った。皆オレンジのヒンドゥーのシンボルカラーを身に着けてて、その案山子は緑色の服を着ていて、周囲の人たちはまるで案山子を暴力的に扱っている、ように見えた(予告にも出てきます)。作中の記者の人たちが「対立をあおる」と言っていたし、多分、あの映像の中で焼かれていた案山子は異教徒のイメージなんだろうな。伝統文化と思われるものの中に、対立をあおるイメージを混ぜ込んでいくの怖いな。
あとは、みんぱくの展示でも感じたんだけどお祭りがだいぶ人でごった返した大騒ぎになってるからか、女性は2階の窓から見てるみたいな光景が結構あって、あっ地続きだ…と思いました。
当然ヒンドゥー教自体が全部よくないわけではないんだけど。神社自体はいけなくない筈なのに神社本庁があれなのと同じ感じで…複雑だ。

でもこういうことが実感としてわかってくると「バジュランギおじさんと、小さな迷子」もう1回見たいな。ダンスシーンの長い予告編だとだいぶアッパーに見えるけど、ヒンドゥー教の展示とか色々見た後だとハマヌーン!心臓!って思いますね。そしてこれもヒンドゥー至上主義の出てくるお話だし、素人目にも一歩間違うと女の子が非常に怖い目にあうのが明らかな場面があったし。日本語公式サイトが消滅していたけど…。

また急に「燃えあがる女性記者たち」に戻って、エンディングの打楽器の音楽よかったなあ。彼女たちの活躍は続く、という感じで終わってああいう打楽器の音楽でうきうきしてしまう。

とても全部の内容は書けないので私が感じたことと思い出したことをつぶやくだけのメモになってしまったけど、見ごたえあったし、パンフレットも解説、採録シナリオ共に充実しているのでおすすめです。

美術館行った記録等々も書きたい。今、ぐるっとパスを消化中なので。